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京都地方裁判所 昭和59年(ワ)983号 判決

甲事件原告

サカエ商事株式会社

乙事件被告

佐藤伝

甲事件被告

神慈秀明会

ほか一名

乙事件原告

日動火災海上保険株式会社

主文

一  甲事件について

(一)  甲事件被告らは同事件原告に対し各自金七万九五九〇円及びこれに対する昭和五八年一〇月三〇日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

(二)  同原告のその余の請求を棄却する。

(三)  訴訟費用はこれを二八分し、その二七を同原告の、その余を同被告らの各負担とする。

(四)  右一項については仮に執行することができる。

二  乙事件について

(一)  乙事件被告は同事件原告に対し金四万〇四六七円及びこれに対する昭和五九年一月六日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

(二)  同原告のその余の請求を棄却する。

(三)  訴訟費用はこれを三分し、その一を同原告の、その余を同被告の各負担とする。

(四)  右一項については仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  甲事件について

(一)  請求の趣旨

1 甲事件被告らは、同事件原告に対し各自二二七万五四六〇円及びこれに対する昭和五八年一〇月三〇日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は同被告らの負担とする。

3 仮執行宣言

(二)  請求の趣旨に対する答弁

1 甲事件原告の請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は同原告の負担とする。

3 担保を条件とする仮執行免脱の宣言

二  乙事件について

(一)  請求の趣旨

1 乙事件被告は同事件原告に対し金六万七四四五円及びこれに対する昭和五九年一月六日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は同被告の負担とする。

3 仮執行宣言

(二)  請求の趣旨に対する答弁

1 乙事件原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は同原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  甲事件について

(一)  請求原因

1 本件事故の発生

(1) 日時 昭和五八年一〇月三〇日午後一時三〇分頃

(2) 場所 大津市上田上大鳥居町五八五番地先県道上

(3) 事故車及び運転者 (イ) 普通乗用自動車(神戸五七や六四九二号、以下西村車という。)

運転者 甲事件被告西村直喜(以下被告西村という。)

(ロ) 普通乗用自動車(大阪三三な八八三六号、以下佐藤車という。)

運転者 乙事件被告佐藤伝(以下被告佐藤という。)

(4) 態様 本件事故当日甲事件原告サカエ商事株式会社(以下原告サカエ商事という。)は佐藤車を新車で納入を受けたばかりであり、所謂ならし運転を兼ねて本件事故現場にさしかかつた。一方、本件事故の時、西村車は東京から大阪空港に遅れて到着したらしい甲事件被告神慈秀明会(以下被告神慈秀明会という。)の幹部を同被告の宗教施設に送るため、急いでいて狭い山道を高速で走行してきて佐藤車を本件事故現場で追い越そうとした。佐藤車は前記の通り新車のならし運転中であり、車両に傷でもつけられては大変と思い、西村車が追い越しやすいように低速で走行するとともに、前方に大型トラツクを認めたので最徐行に入つたところ、西村車が追突した。

2 責任原因

(1) 不法行為責任(民法七〇九条)

被告西村は、西村車を運転する際、先行車との車間距離を十分とり、前方を注視して進行すべき注意義務があるのに、これを怠り、漫然と同車を進行させた過失により本件事故を発生させた。

(2) 使用者責任(民法七一五条)

被告神慈秀明会は被告西村を使用し、同被告が西村車を運転して被告神慈秀明会の業務を執行中前記のような過失により本件事故を発生させた。

3 損害

(1) 車両損害

(イ) 本件事故により原告サカエ商事所有の佐藤車は車体後部に損傷を受けたが、同原告は新車を納入された当日の事故でもあり、またたとえこれらの損傷部分の修理を受けたとしても、同車を引き続き使用していくことは精神的に耐え難い不快感を禁じ得ないので、同車を同型の別の新車と交換するよう大阪日産自動車株式会社に申し入れたところ、佐藤車の下取価格は二〇〇万円と見積もられたが、新車の購入価格は三三五万一〇〇〇円であつたから、その差額一三五万一〇〇〇円の損害となる。

(ロ) さらに自動車税、重量税等の税金及び保険料、登録費等の経費が改めて三二万四四六〇円必要となつた。

(2) 休車損害

一日当たり一万円として六〇日分合計六〇万円

4 よつて原告サカエ商事は被告神慈秀明会、同西村各自に対し損害合計二二七万五四六〇円及びこれに対する不法行為の日である昭和五八年一〇月三〇日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(二)  請求原因に対する認否

請求原因1の事実のうち(1)ないし(3)は認め、(4)は否認する。

同2(1)の事実は否認する。

同2(2)の事実のうち被告神慈秀明会が被告西村を使用し、同被告が西村車を運転して被告神慈秀明会の業務を執行中本件事故を発生させたことは認めるが、その余は否認する。

同3の事実は否認する。

(三)  抗弁

佐藤車の運転者である被告佐藤にはクラツチペタルとブレーキペタルを踏み違え、突如必要もないのに急停止した過失があるから、原告サカエ商事の損害額を算定するに当りこれを斟酌すべきである。

(四)  抗弁に対する認否

否認する。

二  乙事件について

(一)  請求原因

1 本件事故の発生

(1) 事故の日時・場所・事故車については甲事件請求原因1(1)ないし(3)記載のとおりである。

(2) 態様 急停止した佐藤車に西村車が追突した。

2 責任原因

本件事故は、被告佐藤の停止方法不適当の過失によつて発生したものであるから、同被告は民法七〇九条に基づき本件事故により被告神慈秀明会の被つた損害の賠償責任を負う。

3 被告神慈秀明会の損害

(1) 西村車は被告神慈秀明会の所有であるところ、同被告は修理費として一三万四八九〇円の損害を被つた。

(2) ところで本件事故については西村車の運転者である被告西村にも車間距離不適当の過失があるところ、その過失割合は五割であるから、被告神慈秀明会は被告佐藤に対し損害の五割にあたる六万七四四五円を請求できる。

4 保険契約

乙事件原告日動火災海上保険株式会社(以下原告日動火災という。)は被告神慈秀明会との間に昭和五八年七月一日左記自動車車両保険契約を締結した。

(1) 保険者 原告日動火災

(2) 被保険自動車 西村車

(3) 保険期間 契約日より一年間

(4) 保険金額 一五〇万円

5 保険金の支払

原告日動火災は右保険契約に基づき被告神慈秀明会に対し、昭和五九年一月五日保険金として一三万四八九〇円を支払つた。

6 よつて原告日動火災は商法六六二条に基づき被告佐藤に対し被告神慈秀明会の被告佐藤に対する損害賠償債権六万七四四五円及びこれに対する昭和五九年一月六日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(二)  請求原因に対する認否

請求原因1の事実のうち(1)は認め、(2)は否認する。

同2の事実は否認する。

本件事故は甲事件請求原因1(4)記載のとおり西村車の運転者である被告西村の一方的過失によるものである。

同3(1)の事実は不知。

同3(2)は争う。

同4、5の事実は不知。

第三証拠

証拠関係は本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりである。

理由

一  本件事故の発生及び責任について

甲事件請求原因1(1)ないし(3)及び乙事件請求原因1(1)の事実は当事者間に争いがなく、この事実といずれも成立に争いのない甲第二ないし第六号証、同第一〇号証、原告サカエ商事代表者安間俊三、被告西村及び被告佐藤各本人尋問の結果によると、本件事故現場は非市街地で上田上平野町方面から信楽方面に通ずる最高速度が時速四〇キロメートルに規制された県道信楽大津線路上であること、右道路は幅員約五・四メートルで中央線が引かれていない平坦なアスフアルト舗装からなり、本件事故現場付近は直線で見とおしはよいが、その前後には比較的カーブも存すること、被告西村は、本件事故当時、被告神慈秀明会所有の西村車を運転して上田上平野町方面から信楽方面に向け時速約四〇キロメートルで右県道を進行し、本件事故現場手前約一〇〇メートルの地点付近で先行する佐藤車に追いつき、速度の遅い同車を追い越そうとしたものの同車がやゝ進路右方へ進出したりしたので追い越すことができなかつたこと、その後同被告は同車がやゝ加速したり減速したりして進行したため、クラクシヨンを数回鳴らすなどしてやゝ間隔をあけて同車の後方を追従していたが、本件事故現場(衝突地点)手前三二・七メートルの地点付近から時速約三〇キロメートルで同車に接近進行した際、自車前方約五・四メートルの地点で急にブレーキをかけた佐藤車に気付き、直ちに急制動の措置をとつたが間に合わず本件事故現場で自車前部が佐藤車の後部に追突して停止したこと、一方被告佐藤は、その頃、原告サカエ商事代表者安間俊三を同乗させて同原告所有の佐藤車を運転し(なお佐藤車は当時納入されたばかりの新車であつて、当初安間が同車を運転していたが、その後被告佐藤が右安間と運転を交替して運転していたものである。)上田上平野町方面から信楽方面に向かい右県道上を進行していたが、同車の運転や右道路に不馴であつたため速度の安定を欠く状態で走行し、本件事故現場手前を時速約二〇キロメートルで進行した際、後方からクラクシヨンを鳴らされ後方を確認したところ西村車ほか数台の後続車があつたので、加速しようと考え、慌ててクラツチペタルを踏むつもりで誤つてブレーキペタルを踏んだため、急ブレーキがかかり停止した瞬間、後方から前記のように西村車に追突されたことが認められ、被告佐藤本人尋問の結果中右認定に抵触する部分は直ちに措信し難く、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

右事実によると、被告西村は西村車を運転するに際し、先行車である佐藤車の動静を十分注視するとともに、同車との間に安全な車間距離をとつて進行すべき義務があるのに、これを怠り、佐藤車の動静を十分に注視せず、また車間距離を十分に保持せずに漫然と進行した過失により本件事故を発生させたものというべきであるから、民法七〇九条による責任がある。

また被告神慈秀明会は被告西村を使用し、同被告が西村車を運転して被告神慈秀明会の業務を執行中本件事故を発生させたことは原告サカエ商事と被告神慈秀明会との間で争いがないから、民法七一五条による責任がある。

一方被告佐藤はハンドル、ブレーキその他の装置を確実に操作して進行すべき注意義務があるのに、誤つて急ブレーキをかけた過失により本件事故を発生させたものであるから、民法七〇九条による責任がある。

そして被告西村と同佐藤の本件事故についての過失割合は被告西村七割、同佐藤三割と認めるのが相当である。

二  損害について

(一)  原告サカエ商事の損害

1  車両損害

前記認定の事実によると佐藤車は原告サカエ商事が所有するものであるところ、成立に争いのない甲第八号証並びに原告代表者安間俊三本人尋問の結果によると、佐藤車は本件事故により後部リヤーバンパーが破損し、その修理費用として一一万三七〇〇円を要したことが認められる。

ところで原告サカエ商事は新車購入価格と佐藤車の下取価格との差額及び登録手続関係費を損害として主張するが、右事実によると佐藤車は修理不能な程度に破損したとはいえないので、右修理費用をもつて損害というべきであるから、採用の限りでない。

2  休車損害

代車使用料あるいは休車補償については原告サカエ商事代表者安間俊三本人尋問の結果のみでは未だこれを証するに足りず、他にこれを認むべき証拠もない。

3  過失相殺

前記認定の被告佐藤の過失(三割)を被害者側の過失として原告サカエ商事の損害額の算定に当つて斟酌するのが相当であるから、過失相殺すると、同原告の損害額は七万九五九〇円となる。

(二)  被告神慈秀明会の損害

1  修理費用

前記認定の事実によると西村車は被告神慈秀明会が所有するものであるところ、成立に争いのない甲第一二号証並びに証人野々山保夫の証言によると、西村車は本件事故により破損し、その修理費用として一三万四八九〇円を要したことが認められる。

2  過失相殺

前記認定の被告西村の過失(七割)を被害者側の過失として被告神慈秀明会の損害額の算定に当つて斟酌するのが相当であるから、過失相殺すると、同被告の損害額は四万〇四六七円となる。

三  原告日動火災の保険契約の締結及び保険金の支払

いずれも成立に争いのない甲第一三、第一四号証並びに証人野々山保夫の証言によると乙事件請求原因4、5の事実が認められる。

四  結論

以上によれば原告サカエ商事の本訴請求は、被告神慈秀明会、同西村各自に対し七万九五九〇円及びこれに対する不法行為日である昭和五八年一〇月三〇日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において、原告日動火災の本訴請求は被告佐藤に対し四万〇四六七円及びこれに対する保険金支払日の翌日である昭和五九年一月六日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度においてそれぞれ理由があるからこれを認容し、同原告らのその余の請求はいずれも失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行宣言につき同法一九六条を各適用し、なお被告神慈秀明会、同西村の仮執行免脱の宣言の申立は相当でないからこれを却下することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 小山邦和)

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